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19

January

2018

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こどもと私とアート【美術館篇 vol.1】

休日に親子でゆっくり出かけるスポットとして、美術館を候補にしてみるのはいかがでしょう。親子でアートを鑑賞するちょっとしたコツを知ることで、こどもの創造性を高めるきっかけになるかもしれません。小学校などの教育現場で〈対話型鑑賞〉を実践している、NPO法人芸術資源開発機構ARDA(アルダ)の代表理事・三ツ木紀英さんに、親子でアートを楽しむ工夫についてお話を伺いました。

(写真:佐倉市立美術館「ミテ・ハナソウ」での〈対話型鑑賞〉の様子)

 

「美術館になかなか行けない…」、親子たちへ。

こどもが生まれると、美術館から足が遠のいてしまっているお母さんやお父さんは多いと思います。「こどもと一緒に行って本当に楽しめるのだろうか……」と少し身構えてしまいがちですが、NPO法人芸術資源開発機構ARDA(以下、アルダ)では、〈対話型美術鑑賞〉というあまり聞き慣れない鑑賞メソッドをもとに、多くのこども達に向けて、アートをより身近に感じてもらう活動を行なっています。

アルダでは神奈川県大和市で市民ボランティアを鑑賞ファシリテーターとして育成し、市内全小学校で対話による美鑑鑑賞授業を行っています。この日は、神奈川県の平塚市美術館に訪れた小学4年生を対象に、開催中の所蔵作品展の展示作品を鑑賞するプログラムを実施していました。アルダの代表理事をつとめる三ツ木紀英さんに、親子でアートをより楽しむための極意を伺いました。

 

作品は、観ているようで、観ていなかった。

「アートの見方って、結構難しいですよね。何が描かれているか分からないとか、どう見ていいか分からないとか…」と三ツ木さん。〈対話型鑑賞〉は、もともとニューヨーク近代美術館(MoMA)が1980年代から開発してきた教育プログラムで、美術に触れる人たちにどうしたら作品をより深く理解してもらえるかという試行錯誤の中で生まれてきたものなのだそうです。

 

それまでも学校の先生やこども達を対象に、さまざまな教育プログラムを展開してきたMoMAですが、そのレクチャー形式のプログラムはとても人気で、参加者の満足度も高いものだったとか。しかし、時間が経ってもそれが本当に鑑賞者のためになっているのかをMoMA自ら追跡調査したところ、「(受講者は)レクチャーの内容をほとんど忘れてしまっている」というショッキングな調査結果が浮かび上がってきたのでした。

 

「レクチャー型のプログラムで学んだような気分になっているけれども、本当の学びって何なんだろう。そんなふうに、教育の本質を見つめ直して考えられたのが〈対話型鑑賞〉でした」と三ツ木さんは説明します。

興味深いのは美術教育の専門家だけでなく、認知心理学者と一緒に作ったということ。「どのように人は思考するのか」を研究する認知心理学や、「人は自らの理解、能力を積極的に構築し、知識を身につける」という構成主義という教育学の知見をベースにして、様々な角度から検証されながら作られたのだとか。〈対話型鑑賞〉は、人が生まれ持っている視覚や思考力という能力を使って、アートの中にある複雑なコードを読み解くことができるというとてもシンプルな方法だから、現在も世界中で行われている鑑賞法なのだそうです。

 

問いかけながら観る、対話型美術鑑賞。

それでは実際の〈対話型鑑賞〉が行われているところを見てみましょう。

「この作品を見て、何か気づいたことはあるかな?」「この絵のどの部分からそう考えたのかな?」。この日行われた平塚市美術館での〈対話型鑑賞〉のプログラムの様子を見学していると、「対話型」の名の通り、1人のファシリテーター(進行役)の問いかけに7~8人のこども達が答えるかたちで、気づいたことを自由に次々と発言していくのが印象的です。

 

一つの作品を前にしても、出てくる言葉や解釈はこどもによって本当にさまざまで、「そうきたか!」とたびたび感心してしまいます。

「ファシリテーターが問いかけているのは、『この作品の中では何が起こっているの?』『どこからそう思ったの?』『他に発見はある?』という、基本的にはこの3つだけなんです」と三ツ木さん。進行役をつとめる方々は、アルダによる1年間の鑑賞ファシリテーター育成プログラムを受講した、市民ボランティアなのだそう。ということは、こどもへの質問の投げかけ方にもちょっとしたコツがあるのでは?と思えてきます。

「言葉尻を追うのではなく、こどもが言葉の奥で伝えたいと思っていることを感じ取れるように、全神経を集中させます」。ファシリテーションを終えて一息つくボランティアの方にお話を伺うと、笑顔でこう答えてくれました。

 

「話したいことがこどもから出てくれば、まずは話を聞いてあげて、『それはこういうことを思ったのね』というふうに、どんなことを考えたのかを少し違う言葉で言い換え、新たな角度から認知させてあげる。こうして対話を紡いでいきます」。この言い換え(「パラフレーズ」と呼ばれるそうです)は、こどもに対する「あなたの考えを受け止めたよ」というメッセージにもなって、こどもが話を続けるためのモチベーションを作る、という説明には深く頷いてしまいました。美術館の外でも役立ちそうです。

また、〈対話型美術鑑賞〉は、大人にとっても、アートへの向き合い方に作用してくるとのこと。「私たちはずっと、こどもに問いかけた答えが返ってきたら、続けて『作品のどこからそう思うの?』と問いかけるんですけど、みんなで研修を積むうちに、それが自分の中でも癖になってくるんです」。苦手だと思った作品に対して「なんでこれが苦手なのかな」「自分はどこからそう思うのかな」と、前よりも深く味わえるようになった、と話すファシリテーターの表情に、ボランティア活動での充実ぶりが垣間見えます。

 

「どれが好き?」は、じっくり考えるきっかけ。

(写真:武蔵野美術大学美術館での鑑賞ツアー)

こども達がグループでの対話を終えると、次は個人鑑賞の時間に。それぞれにお気に入りの作品を選んで、1人で静かに向き合いながら、配られたワークシートに気づいたことを書き込んでいきます。先ほどの対話の時間で「作品をよく観る」ためのコツを少しつかんだのか、どの子も時間いっぱいまで作品に熱い視線を注いでいました。

 

「あのワークシートは、別に書かなくてもいいんですよ」と三ツ木さん。 「ワークシートは、あらためて自分1人で作品を咀嚼して、観たり考えたりするきっかけを与える装置のようなものなんです。『すっごくよく観ていたら、あっという間に時間が終わっちゃって書けなかった!』というのでも、もうそれで充分なんですよね。話す内容がいいとか悪いとか、何を喋るかということよりも、『観て、感じて、考える』という時間を楽しむ。これを親子で実践できるといいんじゃないかなと思います」と三ツ木さんは微笑んでくれました。

 

(撮影:加藤健)

親子で楽しむ際にはワークシートを用意する必要はないかもしれませんが、美術館を巡り終えた後、「一番好きな作品はどれだった?」とお子さまに問いかけて、もう一度その作品の前に戻ってじっくり鑑賞してみてもいいかもしれません。

次回は、家族ならではの〈対話型鑑賞〉の実践のしかたや、親子で行く美術館の楽しみかたについて伺っていきます。

 

三ツ木紀英

NPO法人 芸術資源開発機構 代表理事 /アート・プランナー、アート・エデュケーター。英国留学後、フリーランスやNPOの立場で、美術施設だけでなく街や保育園、児童館、学校、高齢者施設で展覧会・ワークショップを企画運営。ニューヨーク近代美術館の元教育部長フィリップ・ヤノウィンから一年にわたり、Visual Thinking Strategiesを学び、近年は対話型美術鑑賞のファシリテーター育成を中心に活動。共著:「現代アートの本当の見方-「見ること」が武器になる」(フィルムアート社/2014年)等

http://www.arda.jp/

 

こどもと私とアート【美術館篇 vol.2】

 

Illustrator:Yuka Okazaki / https://www.instagram.com/y_k_o_k/

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